何をやっても、長く続けたことがありませんでした。
そんな私が唯一、本気で続けられたものがあります。それが「英語学習」です。
始めた理由は、拍子抜けするほど単純でした。
「英語が話せたら、かっこいいな」
本当にそれだけです。大学3年生、高校時代のテストで50点を超えたことすらなく、英語とは縁もゆかりもなかった私が、ある日突然そう思い立ったのです。そして1ヶ月だけ、本気で英語と向き合った結果、独学でTOEICの点数は300点台から640点まで伸ばすことができました。
ありきたりな話に聞こえるかもしれません。けれど、ありきたりに見える結果ほど、実はその裏に「続けるための仕組み」が隠れているものだと、今の私は思っています。今回は、その1ヶ月でやったことを、できるだけ具体的に書き残しておきたいと思います。
1. 目標を掲げる ―― 何を続けるかより、なぜ続けるか
何かを続けるために、まず大事なことは目標を掲げることです。これは英語学習に限らず、あらゆる物事に共通する原則だと思います。
正直、目標の内容自体はなんでもいいんです。
- 「TOEICの点数を○○点上げる」
- 「話せるようになる」
- 「英語を使った仕事をできるようになる」
大切なのは点数でも資格でもなく、自分がその目標に対して心から動ける理由を持てるかどうかだと思います。私の場合、最終的に欲しかったのは点数ではなく「話せるようになる」という実感でした。だからこそ、最初に掲げた目標はこうなりました。
「1日中、英語の空間を自分で作る」
本来であれば留学に行って、英語が飛び交う環境で生活するのが理想です。でも当時はそんなお金もなかったので無理でした。
「だったら自分でその環境を作っちゃえ」
そう考えて、生活そのものを無理やり英語仕様に書き換えることにしました。ここから紹介するのは、その1ヶ月で実際に積み重ねた工夫の数々です。
2. スマホの言語を英語に変える
まず最初に手を付けたのは、スマホの言語設定を英語に変えることでした。
スマホは毎日必ず見るものです。その言語を変えるだけで、強制的に英語に触れる時間が日常の中に生まれます。
最初は何が書いてあるか全く分かりません。でも毎日見ているうちに、なんとなく意味が掴めてくるんです。
例えば、ホーム画面を開くと「Tuesday」と表示される。「今日は火曜日だから……火曜日がTuesdayか!」という発見があります。
Googleマップを開けば、「Where to stay」「Latest in the area…」といった表示が出てきます。最初は呪文にしか見えなかったそれらが、慣れてくると「泊まる場所」「場所の最新情報を取得中…」というニュアンスが掴めるようになります。
スマホに表示される言葉は基礎的な単語や表現が中心だと思います。だからこそ見慣れておくと、TOEICの問題でも迷わず読み進められるようになります。設定画面からすぐに変更できるので、ぜひ試してみてください。
3. 洋画・洋楽で「勉強」を「習慣」に変える
定番の方法だと思いますが、効果は大きいです。1日2〜3時間、洋画や洋楽に触れる時間を生活に組み込みました。
目的は自然な英語に慣れることでしたが、一番の理由はもっと単純でした。
「楽しく英語学習をすること」
教材を使った学習はどうしても「勉強」という枠組みになってしまい、モチベーションを保てそうになかったんです。だから趣味として続けられるよう、特に洋画を多く活用しました。
字幕は最初から英語にしました。
「話の流れが分からないでしょ」と突っ込まれそうですが、その通りで、全く分かりませんでした(笑)。それでも当時は、耳に入るもの、目に入るもの、全てを英語にしたかった。本来は日本語字幕で内容を掴んだうえで英語字幕に切り替える方が正しい順番だと思います。これはあくまで私なりの、少し遠回りなやり方です。
それでも不思議なことに、1ヶ月もすればなんとなく内容が掴めるようになってきます。映像から登場人物の表情や行動、風景を読み取ることができるからです。「なんとなくこう言ってるな」というのが掴めてくるんです。
言語学習の世界には「理解可能なインプット(comprehensible input)」という考え方があります。すべてを言葉で理解する必要はなく、状況や文脈の助けを借りながら意味を推測できる情報に触れ続けることが、習得を進めるというものです。映像という文脈情報があったからこそ、字幕の意味が後から追いついてきたのだと思います。単語や文法も、文字だけで覚えるより、どんな場面・どんな表情で使われていたかをイメージできることのほうが、記憶に深く残ります。
洋楽は、移動中などに耳から日本語が入らないようにするために活用していました。さらに口ずさんで、1週間に1曲は歌詞を見ずに歌えるようにしていました。発音の練習にもなるので、これはかなりおすすめです。
4. 文法学習であえて選んだ「英語だらけの教材」
TOEICの点数を上げるには文法学習が欠かせません。正直、私が最もやりたくなかった部分です。とはいえ避けては通れません。
当時はSVOCすら怪しいレベルでした。「もう絶望でしかない」と本気で思っていたくらいです。
「どうにか頑張らないと」 「でも、あの分厚いテキストをやるのは気が重い……」 「何か他に方法はないか」
そう考えていたときにある動画にヒントをもらい、たどり着いたのが、
解説も問題も全部英語で書かれているテキストに取り組む
という方法でした。
「読めないじゃん」と思いますよね。それが不思議とわかるんです。問題形式自体は学校で見慣れた穴埋め問題や選択問題と同じパターンが多いので、何をすればいいかは推測できます。
Write the negative.→「ネガティブ=否定だから、否定文にすればいいのか」Complete these sentences.→「コンプリート=完成。空欄を埋めて文を完成させればいいのか」
こんな具合に理解を組み立てていきます。解説もシンプルに書かれているので、つまずくことなく進められました。
なぜわざわざ英語だらけの教材を選んだのか。理由は単純で、新鮮さがあって「英語を勉強している感」が強かったからです。とにかくモチベーションを保つための工夫でした。人は、周囲がやっていないことや目新しいことに触れたとき、ある種の高揚感を覚えると思います。その新鮮さを、継続の燃料として利用した形です。
赤色のテキストが初級編、青色が中級編という構成で、最低でも赤色は1ヶ月で1周することを目標に、毎日取り組みました。
5. 正規のやり方とは違う、私なりのシャドーイング
これが一番苦労したパートです。1日1時間程度、取り組んでいました。
シャドーイング本来のやり方は、聞こえてくる音声をほぼ同タイミングで追いかけて発音すること。だが、早すぎて到底追いつけず、何を話しているかすら分かりませんでした。
そこで、遠回りでしたが、次のステップに分けて進めることにしました。
- 文章をノートに書き写す
- 書き写した文章をひたすら音読する
- その後にシャドーイングをする
最初からシャドーイングするのが正しいやり方かもしれません。ただ私にとっては、ただの「呪文」にしか聞こえず、やる気を失うだけでした。イメージとしては、1巻も読んでいない漫画を100巻から読み始めるようなもの。わかるわけがないんです。
聞こえてくる音をそのまま発音して耳や発音を慣らすこと自体は、確かに有効な手法です。しかし、何を話しているか分からないまま続けても私にはほとんど意味を成しませんでした。
「ノートに書く → 音読する → 内容をある程度理解してからシャドーイングする」
この順番に変えたところ、確実に成長している感覚を得られるようになりました。先述した「理解可能なインプット」の考え方は、ここでも同じように効いていたのだと思います。意味の分からない音の連なりをただ真似るのではなく、まず意味を理解したうえで音に触れることで、言葉が初めて自分の中に「入ってくる」感覚がありました。
ちなみに、私が活用していたのは「TED: Ideas change everything」です。
6. オンライン英会話
シャドーイングが「正しい音を真似る」ための時間だったとすれば、オンライン英会話は、覚えた言葉を初めて自分の意志で外に出す時間でした。
最初のレッスンは、本当に何も分かりませんでした。講師が話す英語はもちろん、簡単な挨拶すら聞き取れず、画面の前でただ茫然としていたのを覚えています。
ただ、オンライン英会話の講師は、英語が分からない生徒に教えることに慣れています。こちらが固まっていても、ゆっくりと、言葉を変えながら優しく導いてくれました。本当にどうしても聞き取れないときは、チャット機能を使って文字でやり取りすることもできます。言葉が通じない不安を、声以外の手段でも補える環境があったことは、続けるうえで大きな安心材料になっていました。言語学者のスティーブン・クラッシェンは、学習者の不安や緊張(affective filter)が低いほど言語の習得が進みやすいと述べていますが、優しい講師とチャットという逃げ道の存在は、まさにこの緊張をやわらげる役割を果たしていたのだと思います。
講師の国籍はフィリピンの方が多く、中には日本語をある程度理解してくれる方もいました。それ以外にも世界各国の講師が在籍しており、多くの訛り(アクセント)に触れることができたのも、大きな経験でした。英語には、アメリカ英語やイギリス英語だけでなく、世界中で話されている「ワールドイングリッシュズ(World Englishes)」と呼ばれる多様な英語のかたちが存在します。様々な訛りに耳を慣らしておくことは、結果としてどんな相手の英語にも動揺せずに対応できる耳を育てることにつながったように思います。
個人的なおすすめは、セルビアの講師でした。講師の人数が多く、訛りが少なく、発音がとても綺麗だったことが理由です。
当時利用していたのは「ネイティブキャンプ」というサービスでした。価格が比較的安く、レッスン回数が無制限という点が、当時の自分には合っていました。ただし、ネイティブキャンプはフィリピン人講師など非ネイティブ講師のレッスンは回数無制限で受けられる一方、アメリカ人やイギリス人といったネイティブ講師と話すには、追加のオプション課金が必要になる仕組みになっています。私はそのオプションまでは利用していなかったため、ネイティブ講師との会話は経験していません。
レッスンの内容も幅広く、TOEICのリスニング対策に特化したものもありました。私自身は発音をよくしたいという気持ちが強かったため、「Pronunciation」という講座を初級・中級・上級と順番に受けていました。
ちなみに、講師や他の受講者の間で評判が良いのは「フリートーク」のレッスンだそうです。私自身は、何かテーマが決まっていないとうまく話せないタイプだったため、フリートークはあまり利用しませんでした。得意な形を選んで続けることも、長く続けるためには大切な工夫だったように思います。
レッスンは毎日1〜2時間程度、回数にすると2、3回ほど受けていました。
7. 単語学習は「1日1章+復習」の繰り返しが正解
TOEICには特有の単語が頻出するため、単語学習は欠かせません。「単語を覚えるだけでも点数は上がる」とよく言われますが、その通りだと思います。
(ただ、それを語る人たちは一定の文法力を前提にしている場合が多いです。私はその文法すら怪しいレベルでした(笑))
やり方はシンプルです。
- 1日1章を覚える
- 覚えた1章を次の日に1回復習する
- 復習してから次の章に進む
このサイクルを回すことで、1ヶ月の間に同じ範囲を何度も目にすることになります。
心理学には「エビングハウスの忘却曲線」という有名な研究があり、人は学習した直後から急速に記憶を失っていくが、適切なタイミングで復習を重ねるほど、忘却のスピードは緩やかになっていくとされています。「1日1章+前日分の復習」という単純な繰り返しは、まさにこの忘却曲線に抗うための、もっとも素朴で効果的な手段だったのだと思います。
8. TOEICの過去問
TOEICは時間が足りないことがほとんどです。それに慣れるためにも過去問演習は欠かせません。
ただ正直に言うと、私自身の目標は「話せるようになること」で、TOEICの点数そのものではなかったため、過去問は1回分くらいしか解いていません(笑)。
しかし、この記事を読んでくださっている方の多くはTOEICの点数を上げたい方だと思います。だからこそ、過去問は何回分も解くことを強くおすすめします。私の場合は、最新のTOEIC公式問題集を3冊ほど使いました。教材は公式問題集を使うのが確実です。
9. その他、隙間時間をすべて英語に変える工夫
上記以外にも、隙間時間をすべて英語に変える工夫をしていました。
- 朝の30分はPodcastのABCニュースを流す:目覚めるまでの時間を英語のシャワーに変えることにしました。そのまま二度寝してしまうこともありましたが(笑)
- 洋書を読む:1冊を通読するというより、長文読解のように、ゆっくり内容を理解していく感覚で取り組みました。
「机に向かう時間」だけを特別な学習時間にするのではなく、生活の隙間すべてを英語に置き換えること。それが、結果的に一番の近道だったと今振り返っても感じています。
10. 終わりに
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
これが、TOEICの点数を1ヶ月で大きく伸ばした、私なりの英語学習法です。
私は特別頭が良かったわけでも、英語が得意だったわけでもありません。ただ1ヶ月だけ、本気でやってみただけです。同時期に投稿した記事で触れた「側坐核」の話のように、行動を起こしたから意欲が後からついてきた、という側面も大きかったのだと思います。
もし今、「自分には無理かも」と思っている人がいるなら、まずは1週間だけでも続けてみてください。小さな行動が、自分を変えるきっかけになるかもしれません。
今回使った教材まとめ
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